5年くらい前のこと。祖母と母から着物がどっさり送られてきた。というより、送りつけられた。「もう着ないし着る人に差し上げて」とのこと。だけど、周囲に着る人もいない。リサイクルに持って行ったら、一山500円とびっくりする安値。かといって資源ごみに出したら、なんだか祟られそうである。仕方がないので、しばらくそのままにしておいた。
その後転職して大学教員になった。留学生の夏のプログラムを任せられた。着物なんか着たら喜ばれそうと思ったが、どう着たらいいかは分からない。着付け教室に行く時間もない。ということを周りの知り合いたちに、とりあえず言ってみた。すると言ってみるものである。「教えてあげるわよ」と私が夜遅い時、娘たちを預かって下さるIさんからの天使の声。彼女は保育園の先生をしているということは知っていたが、着付けのプロでもあったのだ。
数回教えていただき、なんとか着物を着て、下駄を履いて、留学生を谷根千に案内した。3時間ほど下駄履きで歩き通したが、案外疲れない。予想以上に楽なのに、何故かちゃんとして見える。何より奇抜な組み合わせも、洋服では可愛すぎる色も着物なら大丈夫だ。ちょうどヨガを真剣にするようになり、筋肉がついたらスーツもきつくなってしまったし、学生にも間違えられないので、その後割と着るようになった。今では、15分くらいで普段着は着られる。冬はブーツを合わせる。昔みたいに着る人がたくさんいないから、あまりうるさく言う人もいないので、気も楽だ。
その後、もらったり、差し上げたりの「贈与交換」の輪も広がり、楽しい。そして着物は帯でアレンジもきくから、洋服を買う頻度やペースもぐっと減った。スローな消費生活のはじまりでもある。