佐藤峰研究室/Mine’s Lab

小確幸のコミュニティデザイン/Community Design for Wellーbeing

エッセイ

食うたことないもん

投稿日:4月 30, 2023 更新日:

今月、15年前に亡くなった祖父と昨年亡くなった祖母を偲ぶ会を大阪で行った。祖母とずっと一緒に暮らしていた叔父が企画してくれたものだ。カトリック教徒なので死は魂が天に戻ると考えているから、仏教の法事(にあまり行ったことがないので想像だが)よりも随分とあっさりしていると思う。午前中にミサに出席してそこで二人の名前が呼ばれる。そして、午後に2時間ほどの会食という内容だ。ただ、そこに親族が勢揃いした。アメリカからも叔父叔母いとこ達がやってきた。母のいとこにあたるSちゃんとA君も来てくれて多分25年くらいぶりに再会する。そして祖父の仕事の関係でもとタカラジェンヌのおばあさま方も数名いらした。関西ではジェンヌさんと親しみを持って呼ばれている。

このジェンヌさんたちがすごかった。すでにお歳は80歳を超えているはずなのに(中には90歳近い人もいた)、全くもって只者ではない。少し先から歩いてくるその立ち姿や歩き姿がすでに玄人である。背筋はピンとしており、堂々としていて、「おばあさん」とは思えない鮮やかな色使いの服やスカーフ。ちゃんとジェルネイルをしている方もいる。華やかだ。

会食の際に祖父の思い出を語ってくれる人を叔父が募集したところ、皆手をあげてくれたのだけれども、それも普通の挙手ではない。タカラヅカ式なのだろうか、斜め45度の角度で、手のひらはやや外側だった。確かに美しく見えるが、全員がそうしたのでちょっとびっくりした。しかし話してくれるエピソードはかなりの体育会系のものだ。振付師をしていた祖父は相当無茶な人だったらしい。振りは複雑で技術を要し、長いうたの暗記も大変で、毎回毎回新しい振りやスタイルが取り入れられる。祖父がそれを楽しんで無邪気に真剣にやっていたので、誰もギブアップできなかったらしい。

私もエピソードを共有した。祖父が亡くなる前の歳に、祖父はとっくに90歳を超えていたがハワイに親族で集合した。タートルベイという場所に宿を予約してくれて、みんなで料理したり泳いだりして過ごした。高校三年生の長女がまだ1歳だった時の話だから、15年くらい前のことだ。さあ、今日帰りますという日の朝食で、みんなで余っていたシリアルを食べた。数種類あり祖父にどれがいいか聞いたところ、一番不味そうなファイバーたっぷりのシリアルを選んだ。便秘気味かと聞いたらそうじゃなく、「食うたことないもんを食うてみたいんや」と答えた。90歳を超えても食に対して保守的でないなんてすごいと感動した。そんな人だから色々な作品を残せたんだろうなと思う。好奇心は本当に大事だ。

祖母はキッチンの女神だった。特に変わった食材も調味料もないはずなのに常に絶妙な料理を出してくれた。祖母のナスの煮浸しが一番好きで一度吐くまで食べてしまったことがある。祖母も祖父も食欲旺盛で朝からトースト、スクランブルエッグに炒めたキャベツ、チーズにミルクティというメニューだったから、祖父母の家に数日居ると確実に太ったことを思い出す。長女なんて祖母が亡くなった時に「よく送ってくれていた牛肉の時雨煮がもう食べられないの?ママレシピ分かるの!なんで聞いておかないの!!」と私に怒っていた。ちょっとひどい話だがそのくらい美味しかったのだろう。再現できない味だ。祖母自身、亡くなる1日前に叔父に書いたメモには、ヒョロヒョロの字で「お寿司食べたい。シュークリーム、クリームパン」と書いている。100歳を超えた人が食べたいものとは思えなく脱帽だ。そんな自信は私にはない。

好奇心と食欲は楽しく長く生きるための大きな原動力に違いない。

ほぼ神からのことば・・・

-エッセイ

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