佐藤峰研究室/Mine’s Lab

小確幸のコミュニティデザイン/Community Design for Wellーbeing

エッセイ

植物に励まされて

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6月中頃に、父からショートメッセージがあった。LINEでお願いと何度言っても、常にショートメッセージだ。80代の親から連絡がある時は、大抵の場合、入院や事故や、ご不幸なので、着信音にやや警戒しつつスマホを見る。するとそこには、「昨朝白いユリが見事に開花していた。今朝ピンクのユリが開花し始めました」とある。私が実家の庭に昨年植えた球根から、今年は何故か白とピンクの百合が両方とも咲いたと言う。普段余り物事に感動したりそれを表現したりしない父にしては珍しい。けっこう近くに暮らしているのでさっそく見に行くと本当に見事だった。実家の庭では月2、3回しかちゃんと世話しないテキトー菜園を私がしているので、なかなかの荒れ具合だ。そこにスッと伸びた百合は、ハッとする美しさ、なんとなく焦り、庭の草刈りをする。

 一か月ほど経ち、今度は父から電話だ。「かぼちゃのツルが凄い勢いで伸びている。1日に数十センチ伸びてる」とのこと。梅雨時、余り実家に行ってなかったので、どんな風かと思い見に行く。想像していなかった成長で、ちょっぴりホラーじみているほどだ。メンバーになっている農業団体で余った苗を二つもらい、うっかり植えたことを、かなり後悔する。フェンスの全てをおおっていたので、撤去しようかと聞いたら、このままでいいとのこと。その生命力に励まされるのだと言う。父は母をデイサービスを使いながら自宅で介護している。私も気にかけているし、家の掃除など細々と手伝いはするけれど、基本的に1人だ。何度説得しても頑なにショートステイさえ利用していないので、ぎりぎりの毎日だろう。異常に我慢強く、人生はを修行と思っているふしがある。そんな父が励ましを受ける、ということばは重く深い。やや涙腺をやられたので気が付かれないように、茄子とピーマンの収穫に庭に出る。

 そしてしばらく庭仕事(園芸でも農作業でもなく、このことばがしっくりくるし好き)をしていると、とても静かで満たされた気持ちになる。あまり計画せず、気ままに作業するのもしみじみ楽しい。いつもは締め切りに追われたり、やることがエンドレスだったり、慌ただしくてたまらない。脳疲労がティッシュペーパーが積み上がるように溜まる、そんなイメージに囚われてしまう。庭仕事はそんな状況をリセットしてくれる。ヨガもメディテーションもウォーキングもいいけれど、それは自分と向き合う部分が大きいからちょっと意味合いが違う気がする。

 三連休の今朝は早起きして、友達と共同でやってくる畑の草刈りをした。刈り払い機を使っても1時間かかり汗だくだ。絶え間ない蛙の鳴き声が降ってくるようで、大きな畑に一人きりの状況に、自分のちっぽけさをちゃんと感じられて、不思議とほっとする。

 植物に頼って、よりどころのひとつにして、ご機嫌に過ごそう。

 

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